ストロングチューハイに見るアルコール産業の闇


アルコールは脳に入ると酩酊する。その緊張が解けた状態が会話を弾ませるので、百薬の長とも言われる。
実際にはアルコールは薬よりも毒に近い。

【松本俊彦(まつもと・としひこ)】


国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長



アルコールは害がある。肝臓にも脳にも悪い。下戸というアルコールをうまく分解出来ない体質が日本人に多い。腸内菌が理由だという。
それ以外に、アルコールに弱い脳もあるように私は信じている。脳の入り口で、毒を止める関所が弱い、脳自体がダメージを受けやすいと言った体質だ。
父はビール工場で瓶洗浄の仕事をしていた。腐ったビールの臭いがキツイ職場で、新人はすぐに辞めていく。
ただ父は祖父が作った瓶洗浄会社に居続ける道を選んだ。臭いに鈍く、ビールも好きだった。
ビール臭い職場から帰っているのに毎日ビールを晩酌してた。
若いときから、鈍い雰囲気で喋れない人間だったが、職場では将棋を指して若い社員やもっと喋れない社員の相手をして、信頼されていたようだ。
身体も丈夫だったが、アルコールの毒を長年扱い過ぎて、近頃のボンヤリぶりは年齢以上だ。
家事の手伝いと運転以外は、ずっとボンヤリだ。ひきこもりにも近いし、痴呆にも近い。友人もほとんどいない。パークゴルフをやりに行くのだが、友人と話したような気配はない。
元々の性格もあるが、アルコールの弊害があったように感じる。
祖父が遺した会社も、現経営者に遺産の株を全て売って縁を切ってしまった。祖父は酒が大好きで、料理酒まで隠れて飲む人だった。長生きしたが、祖母よりは20年近く早く逝っている。


父は、私に、あの会社には行くな、と言っていた。それほど劣悪な職場だ。
酒産業は薬物産業に近い。違法ではないが、脳を酩酊させる薬物をきれいな広告に乗せて売りさばいている。
父は瓶洗浄だが、アルコール産業の一端にいた。その被害も受けた。
アルコール産業は、ストリングチューハイに見られるように、健康を作る食産業とは逆の、脳を害する薬物産業だ。